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育児休暇日和 ~丞相 曹孟徳の場合2~ 

2014, 11. 10 (Mon) 20:45

 もし、孟徳さんが育児休暇制度を知ったらどうするかな、と思いついて書き出した本編。それでなくても過保護な丞相はこれ幸いに花ちゃんにくっついて離れないような気がします(笑)
 当時はこうした考え方は皆無でしょうし(すいません、中国史はよくわかんない^^;)、振り回されるのは文若さんや元譲さんでしょうね。花ちゃんもか~。
 下書きのまま放置してました、あはは。もし続きを待っていた方がいらしたらごめんなさい。
育児休暇日和
~丞相曹孟徳の場合2~

「えーと、ですから……。私が生まれた国では出生率が問題になっていて、女の人が一生に産む子供って一人か二人くらいなんです。だから少子化の歯止めと言うか、なんとか子供を増やしたいということで育児休暇という決まりができたんです。そういうことをしていかないと子供が増えないんです」
 花は必死で生まれ故郷の出産事情を必死に身ぶり、手振りで孟徳へ説明していた。このままでは年齢不詳の夫は宣言通りに育児休暇を無理やりもぎ取るに違いない。おそらくは子供が産まれた後までだ。そんなことになれば文官、武官共に過労死しかねない。
―国会議員や総理大臣にも育休ってあるのかな、でも総理大臣とか議員になる人はほとんどお年寄りで育児休暇なんて貰ってなかったような気がするよね。
 花の頭の中がぐるぐると廻っていた。きちんと現代社会の授業を受ければよかったと思いながら、必死に説明を続ける。
「花ちゃーん。そんな風に眉間に皺を寄せてると文若みたいになっちゃうよ」
 つん、つんと眉間を孟徳につつかれて花は我に返った。
「もう、そんなことを言ったら失礼ですよ」
 軽く睨むと孟徳は、ゴメン、ゴメンと言いながら、花の言葉に疑問を感じて問いかけた。
「でも、しょうしか、とか、女の人が産む子供の数が一人か、二人って花ちゃんの国ではそんなに子供が産まれないの? それって病とか?」
 花の生まれ育った国のことには興味がある。だから、時間が許せば話をせがんだ。前に聞いたお伽噺のようなものではなく、国の成り立ちそのものをだ。今まで聞いた話では医療も充実している。戦も餓えもない。なのに、子供が少ないというのはどういうことだ。病で命を落とすことなど想像もできないことだというのに……。
「違います、違います! 産まれないんじゃないんです、産まないんです。それに病気でもありません。以前もお話したように私の国では女の人でも普通にお仕事をしていますから、お仕事を優先して子供を産みたくない人もいるんです。それに子供を産むとお仕事を辞めさせるようなマタハラ、ううんと酷いこと? をする会社、うーん、商店ッて言い方の方がいいかな? とかもあるんです。だから、お仕事をしたい女の人はそれを優先してしまうんです。そうなると段々結婚する年齢も高くなって産んでも育てられのは一人か二人くらいになるんだと思います。だから人口、えと民が減っていることもあるし、国が子供を育てる夫婦に協力する為の制度を作ったんです。民が減ってしまうと税も減るし、産業もなりたっていかないですから、国を挙げて子育てをしやすい環境をつくり上げているんです」
「へぇ。面白いね。でも、そういう制度はいいことじゃないの。俺はこうして花ちゃんといられるし、大賛成なんだけど」
 にぱ! と音がしそうなほどの全面の笑顔でそう言い切られると花の脳裏に文若の眉間に更に深く皺が刻印されるのが、容易に想像できた。
―ど、どうしよう。
 花は頭を抱えたくなった。今、言ったことは嘘じゃない。第一、孟徳に嘘は付けない。
「でも、それって不公平じゃないですか」
 ぽつんと花の唇から言葉が漏れた。
「え、どうして?」
「だって、この国には孟徳さんだけじゃなくて、たくさんの人が働いていますよね」
「うん、そうだね」
「じゃあ、その人たちにも育児休暇を上げなきゃ不公平です。女官の人だって、文官や武官の人だって結婚している人だっているし、お腹が大きくても働いている女官さんもいます。私だって文若さんの部署にいる文官の一人です。他の人は育児休暇をもらえないのに、私や孟徳さんだけが育児休暇をもらうのはおかしいです。それを押し通すのは私たちのわがままだと思います」
 ああ、この子のこんなところが好きだと思う。花は無意識に周囲への気配りができる。それは丞相という立場にいる孟徳にとっては得難い宝のようなものだ。
 だから花の人となりを知った者は花への忠誠を誓う。孟徳の妻としてではなく、花個人に対してだ。それを危惧する者がいることも知っているが、そんな無粋な輩は孟徳が排除すればいい。今は彼女の意見に耳を傾けるべきだと本能的に孟徳は思う。
「厳密にいえば君は俺の妻なんだから、文官としての役目よりもそっちを優先してもらいたんだけどな」
 花の顔を覗き込むようにして孟徳が語りかける。
「お仕事と奥さんとしての役目は別です」
 花はきっぱりと言い切る。妻の役目は妻の役目。文官の仕事は文官の仕事。どちらも大事で、どちらも頑張って花は孟徳の役に立ちたいのだ。
「はーなちゃん。俺は妻の仕事が優先的に大事だと思うよ。それに今はおなかに大事な宝物がいるでしょう」
「それはわかっていますけど……。でも、身分の高い男の人は沢山奥さんがいますよね。女の人の育児休暇を認めてあげることの問題は少ないと思いますが、そういう奥さんが沢山いる男の人の育児休暇を認めてしまうと、お仕事が混乱しませんか? 国がきちんと動かないと万が一の時に困るし、何よりそれで国が傾いてしまったら本末転倒です」
 あえて誰の妻が多いとは言わない。花はそれもきちんと理解して孟徳の正室という名前の妻となったのだから。だが、孟徳は言葉に詰まった。有能な官吏ほど妻が多いのも事実。もし、花の言うように男性も育児休暇とやらを取れるのであれば、確かに仕事が廻らない。脳裏で文若が書簡を手にしてパタリと執務室内で倒れている幻が見えた。これは以前花から聞いた『かろうし』というものだろうか? これは漢が花から聞いている『ぶらっくきぎょう』という状態になるということかもしれない。さすがに孟徳も文若が『かろうし』されては困る。仕事を押し付ける相手がいなくなることはまことによろしくない。そう思うとするりと言葉が口をついて出た。
「うーん。それは不味いかもしれないね」
「ですよね!」
 今度は花の方がにぱっ! と音が聞こえるような笑みを浮かべた。
「はーなちゃん。なんでそう嬉しそうなの。俺がいない方が嬉しいのかな」
「え、あ、ううう。孟徳さんは意地悪です」
 拗ねた孟徳の言い分に花が慌てて言葉を探すが出てくるのはうめき声に似たものばかり。
「この件はきちんと文若とも相談して決めるから、安心して、えーと、たいきょうだっけ、懐妊している時にいろんなことで考え込むと良くないんだよね」
 たわいない話を覚えていてくれたんだと思うと花の胸の奥が暖かくなった。
「そうですよ。あまり周りを困らせないでくださいね」
 コツンと孟徳の胸に額を当てると、
「わかってるんです。孟徳さんが私と一緒にいたいって思ってくれてるの。ものすごく嬉しい。だって、育児休暇が取れたら、私は孟徳さん独り占めですもん。こんな贅沢なことない」
 小さい声で呟いた。
 この娘は何を言っているのかわかっているのだろうか、花が孟徳の胸に額をつけているおかげで顔を見られないことがありがたい。おそらく、この上なくにやけているに違いない。
「花ちゃん。あんまり嬉しいこと言わないで。俺、このままここから動けなくなるかも」
「えええ!! 駄目です、駄目です。お仕事、溜まっているんですよね。文若さんも元譲さんも待ってますよ!」
 慌てて、顔をあげると花の頬は紅色に染まっている。そこへ思いつきのように口づけると、
「じゃあ、不公平にならないやり方を見つけてみるね」
 ぎゅと抱きしめて孟徳は大人しく部屋を出て行った。
「こ、これで本当に大丈夫か、な?」
 花は不安げに呟いた。
 どうやらまだ孟徳は育児休暇を完全に諦めていないようだ。
 花は心から深―いため息をついた。ある意味でこれは孟徳対花の夫婦の対決だった。
続く
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