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光の娘 

2015, 02. 03 (Tue) 22:25

 書きたいものがたくさんあります。明治東京恋伽のSSも書きたいし(劇場版公開記念したいなー)、続きも書きたい。

 ぼちぼち思いつくままに書いてます。横道それてますが、一応、孔×花でバレンタインです。

 三国時代があまりくわしくないので、間違いは大目に見てくださいね。
光の娘

 栗色の髪に、大きな瞳。けっして彼女は綺麗なんかじゃないのに、いつだってみんなの中心に彼女の姿はある。
 相手にも、自分たちにも、被害が出ないようなすごい策を考えるのに、小さな子供だって知っているような当たり前のことを全然知らない。
 大人みたいなのに、幼い子供みたいな時もあって、子供みたいなのに、大人びた目で戦場を見つめていて、気がつくと眼がいつも彼女を追っている。
 でも、彼女は誰にも優しくて、無防備にふんわりと微笑んで見せるから、沢山の視線が花を追うようになる。
 まるで傍にいる自分の存在なんてすりぬけて行くように。
 でも、確かにそうなんだ。
 彼女を守るにはこの手は小さくて……。
 彼女を守るには力が足りなくて……。
 彼女の役に立つにはまだまだ学ぶことが多すぎて……。
 いま、亮に出来るのはうたた寝をしている花の肩へ衣をかけてやることぐらい。
 いつか、この背が彼女より高くなったら、花をその背で守ろう。
 いつか、沢山学んで彼女の手助けをできるような策を考えられるようになったなら、同じように戦のない世を目指そう。
 その時はきっと誰の目に入らない亮の姿もきっと花の隣に並んで見える。
 それが叶うのはいつだろう。
 亮は思う。

 漢帝国が三国鼎立という形でまとまれば、また別な意味で問題が出てくる。定期的にそれぞれの国が都へやって来てしなければならぬことも多い。
 それは今では蜀の丞相になった孔明も同じ。凪いだ湖のような穏やかさを湛えた、その下では、見えない三国の攻防は今も続いているのだ。
 それを壊さぬよう、駆け引きは続く。願うことは一つだけ、花と共に戦のないこの世を作るため。
 たから、この天秤がいつまでもつりあっているように心がける。
「ほーんとうに疲れるよね。こっちが落ち着けば、余計なちょっかいを出してくるのもいるし」
 とんとんと年よりくさい仕草で肩を叩くと孔明はため息交じりにぼやいた。
 三国の国主が都に集まると時は疲労度が増すは事実だ。
「でも、こうして定期的に顔を合わせることで得られることも多いのも事実ですよ」
「まぁね。こんな寒い時期じゃなきゃやることが多くて、陛下も集まるように詔を出すのは躊躇われるだろうしね」
 孔明の口から言葉と共に白い息が漏れる。
「今日はまた寒いですよね」
「そうだね。君は寒さに弱いんだから風邪をひかないように気をつけなさい。それこそ、君が風邪をひいたりしたら、大騒ぎで会議も陛下との謁見もすっとんでなくなるからね」
「え、どうしてですか」
 意味がわからないというように花が小首を傾げる。思わず孔明は脱力して思いっきりため息をつきたいと思ってしまった。
 思えば、初めて出逢った時からそうだ。自分に向けられている特別な目に無頓着すぎるのだ。無邪気といえば聞こえはいいが、天然で無自覚なのは時には罪だ。
「宿題です。自分の胸に手を当てて良く考えなさい」
 ことさら師匠ぶった言い方で堅苦しく言うと、花の頬がぷっくり膨らんだ。
「もう、教えてくれてもいいじゃないですか!」
「あー、もう。自分で考えな! 君のいい所はそういうところなんだけど、それが逆に欠点でもある」
「欠点ですか?」
「そう。それ以上は言わないよ。それより、今日は陛下に頼み込んで宮殿の厨房を借りていたんじゃないの? だから、午後からの仕事休みにしてくれって、僕に仕事を押し付けたんでしょ」
「う。そんな押しつけたなんて……」
 花の顔が罪の意識からか、若干引き攣る。
「そんな顔しなくてもいいから、いっといで。なにか作るんなら、僕に一番にくれるんでしょう」
 その孔明の一言で花の顔がぽっと桃色に染まる。
「あ、え、い、行ってきます!!」
 そのまま綬裙の裾を翻して、ぱたぱたと花の姿が回廊の向こうに消えた。
「ばれんたいん、ってなんなんだろうね。本当に変な所はわかりやすいのも困りものだよ」
 そう言いながらも孔明の口元は大いに緩んでいたのだった。

 こちらの世界へ花が住んでいたところの風習を入れることに抵抗はあるのだが、これくらいは許してもらえるだろうと花は思う。
 だって、初めて渡す本命なのだ。今までは父親や弟へ渡す義理チョコくらいしかなかった。
 もちろん、この世界でチョコレートを手に入れることなんてできないから、ただの菓子程度の物なのだが、それでも作って渡したいと思う乙女心。本音を言えば、孔明にあちらの世界の風習を大事にしているように思われたくなくてウジウジと考えていたのだが、それは親友の芙蓉姫があっけないほどの一言ですっとんだ。
「それってあなたの生まれ故郷の習慣なんでしょう。それをやったからって、あなたが返りたいと思っているなんで思わないわよ。だって、そんなこと、これっぽっちも思っていないでしょう? なら、やらない方がいじけるわよ、あの手の男は」
 若干、酷いなぁと思わないでもなかったが、確かに何かを考えていることは孔明にはお見通しだろうし、それを渡さなければそれなりにいじけるような気はする。そんな所はまだ亮と呼んでいたころと同じだ。
 そうして、ふと花は考える。
 成都にある孔明の別宅にため込まれた花に宛てて書かれた大量の書簡が確実に、出会いからの時間を伝えていて、あの時、花が握りしめていた手はもう花の手を握りしめるほど大きい。ここまで追いついて来てくれた気持ちを思うと胸が切なさで詰まる。自分は同じように頑張れているだろうか。
 花と同じ戦いのない世界をつくるという夢を見てくれている人。その隣にいつまでもいたいと願う。それは嘗ての亮も思っていたことだとうぬぼれてもいいだろうか。
「いまさら亮君と同じだなんて、情けないかも……」
「なーに、ぶつぶつ呟いてるのよ! おっそい、花!」
 辿り着いた先では既に芙蓉姫が準備万端と整えていた。だが、さすがは漢帝国の皇帝の居城の厨房だけはある。広い――。
「芙蓉姫、早かったんだね」
「あたりまえじゃない。こんな面白そうなことに参加しないなんて、つまらないでしょう。それに私もあなたのいう、ばれんたいん、だっけ、をしてみたかったし」
「ありがとう。私ひとりじゃ、まだお菓子作りは不安で」
 ひしっと親友に抱きつくと、よしよしと芙蓉姫がその頭を撫でてくれた。
「さぁ、取りかかるわよぉ! 孔明殿にも花が身体を冷やして風邪をひかないうちに終わらせてくれって言われているしね」
 そう言いながらも、二人の足元には暖が取れるように青銅製の火鉢が置かれている。
「うわぁ、贅沢な」
「ほーんとうよ、愛されてるわね。はーな!」
 誰がこれを用意してくれたのかは一目瞭然、孔明だろう。本来ならば、このような場所に置かれるものではない。
「師匠は私を甘やかしすぎかも」
「はぁ、もうわかってないわねぇ。孔明殿だけの訳ないじゃない。陛下のご厚意もなければ、厨房に火鉢なんておけないわよ」
「ええええ!!!」
「ねぇ、あなた、そんなんでよく軍師だったわよね」
 あの不思議な本のことを知らない芙蓉姫が生温かい目で花を見つめる。
「だ、だって陛下というより管轄の官吏の人にお話しただけだし……。それに陛下はきっと風変わりな風習だと思っているだけで」
「はい、はい。鈍いから、それ! まぁ、これだから曹孟徳の所でも毒牙にかからないですんだのね」
「え、なんで孟徳さんが毒牙なの?」
「鈍い……」
 その一言に芙蓉姫は大きく肩を落としながらも、内心ではほっと息をついていた。花の想いは真っ直ぐに一人だけに向けられている。
 花が暮らしていた世界では婚儀は好いたものがするもの。芙蓉姫も恋心が実ったが、そんな婚儀はこの世界にはありえないのだ。
 玄徳が孔明の所から連れてきた弟子の少女はどこか浮世離れしていて、こんな子が何の役にたつのと思ったのも事実だ。
 でも、彼女はこれまで芙蓉姫が出会った誰よりも真っ直ぐだったのだ。彼女の想いがこの争いの絶えなかった世を変えた。
 あの許都から帝を奪還する戦をした時のことを鮮やかに思い出すことができる。まるで花は光を纏っていたようだった。
 孟徳軍の精鋭である青洲兵が道士様と彼女を呼び、ひれ伏した瞬間、芙蓉姫はそこに一筋の光を見たと思う。
「ねぇ、花」
「なに、芙蓉姫」
 小麦を蒸して、干して、粉にしたものへ卵と牛の乳を加えて、陛下から下賜された蜂蜜を入れて、生乳だからできる手製のバターを加える。そこへ干し棗や杏を刻んで混ぜて焼けばクッキーもどきの焼菓子の出来上がりになるはずだ。
 手を動かしながら、花が返事を返す。これなら甘さも控えめだし、何よりも仕事が忙しくて食事が中々取りにくい孔明の小腹を満たすことぐらいはできるだろう。
「あなたに双子の妹が、いるわけないわね。忘れて……」
「え、もうそんなことないよ。弟はいるって話はしたよね」
「そうだったわよね」
 ここで、こうして笑いながら、菓子を作っている姿からは想像できない。しかもその顔はただの女の子だ。
「不思議よね。なんで、あなただったのかしら」
 薪がはぜる音で花にその一言は聞こえなかった。
 芙蓉姫の大事な友人は平凡で、可愛いけど美人でもない。でも、確かに彼女がいたからこうして笑いながら日々を暮らすことができる。彼女にそう言えば、それは違うと言いきるであろうが、この太平は確かに光を纏った花がもたらしたものだ。
「どうしたの、芙蓉姫。寒い、こっちの方があったかいよ」
 そんなことを芙蓉姫が考えているなんて思いもしないで、花は笑ってそう言ったのだった。こんな彼女が友人だということが嬉しいと言葉にはしないが、芙蓉姫はそう思った。

 光を見たと思ったのだ。彼女に救われた時に……。
 彼女が示す策にこんな戦い方があるのだと驚いた。だって、亮には考え付かなかったのだ。戦とは血が流れるもので、他の方法など知らなかった。
 人を害さない方法を考えて、それでも傷つくものや死者が出れば彼女は悔しそうに唇を嚙み締めて、声を押し殺して泣いていた。子供だった亮には何もできなくて、それが悔しくてたまらなかった。
 だから孔明は澄みわたる蒼天を見上げながら一つ呟く。
「二度と誰も泣かない世を一緒に作ろう」
「それは孔明さんも泣かない世界ですよ」
 そこには光を背にした一人の天女がたっていた。
 髪は茶色で、瞳が大きい。けっして美人とは言えない。でも、その笑顔はたとえようもなく可愛くて……。その身には甘い香りの焼菓子の匂いがしていた。両手に抱えるように持った可愛らしく包まれたものが、厨房で作っていた物なのだろう。
「ハッピー・バレンタイン! 孔明さん。私のいた所ではこの時期に好きな人に特別なお菓子をあけるんです」
 光を纏ったその娘は嬉しそうに微笑みながら、そう孔明に言葉をかけたのだった。
「そっか。これが、ばれんたいん、なんだね。じゃあ、僕もお返しをしなくちゃ」
 そう応えると花は微かに微笑んだ。
「お返しはもうもらいましたよ。孔明さんにはもう遠い約束になってしまったかもしれないけど、戦のない世を私は貰いました」
「まったくこの子は、もう。それは僕の科白だよ。君は光と共に現れて、光と共に消えてしまった。だから、僕はその光を捜し続けただけだよ。でも、僕は勘違いだったんだ、君が戦乱に喘ぐこの国にもたらされた光だったんだ」
 人は希望の光がなければ生きていけない。だから……。
「花、僕に光をくれてありがとう。そして、これからもその光を僕にくれる」
「……、はい」
 幼かった亮の手は大事な光の娘を守るには小さすぎたけれど、孔明の手は大きくて、花の小さな手をすっぽりと覆うことができる。
 その大きな手を孔明は花へ向けて差し伸べた……。


うー、あんまりネタが練れてません。バレンタインネタなんですが、もしかしたら直しを入れるかもです。この時代は甘い物は超高級品なので、いくら皇帝でも簡単に花ちゃんに蜂蜜を下賜しないと思いますぅ。
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