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夢見草、咲いた 

2015, 03. 31 (Tue) 19:24

 今はまだぱたぱたとした日々です。(心の癒しは「剣が君」、楽しいです♪ でも、なかなか進まない~)

 新作はもうしばらくお待ちいただければと思います。すいません(T_T) 
 以前の某所でUPしていたものです。それがどこかというのは野暮というものですので詮索はご勘弁をm(__)m
夢見草、咲いた

 雪村の里での日々はとても穏やかだ。
 総司と千鶴の二人の生活ならば、必要最低限でも暮らしていける。
 小さな畑で収穫されるもので食べるものはまかなえたし、余れば近くの村で米などと交換してもらう。
 千鶴が山で採ってくる薬草は自分たちのために使うこともあったが、大抵は村人を介して、売りに出している。時には驚くほどの大金となり、それが二人の生活を支えていた。
 変若水の効果は二人ともほとんどなくなっていたが、総司の労咳はいまだ彼の身を苛んでいる。
「ごめんね。昨日は調子が良かったのにね」
 春めいて、暖かくなったと油断したのが原因だろう。久しぶりに畑仕事をしていた総司だったが、夕刻にはなんだか疲れてような様子をみせていたので案じていたのだが、今朝になるとやはり熱が出ていた。
「大丈夫ですよ。きっと疲れが出たんだと思います。総司さん、きのうはとてもうれしそうに畑仕事してましたもの」
 そういう千鶴の手には粥がよそわれた碗がある。大根おろしが入った、ネギ抜きのものだ。そしておいしくできているはず。
 そう以前、沖田がそんなことを千鶴に言ったことがあった。
 とても懐かしい記憶。
 総司に匙を差し出すと、ゆっくりと咀嚼する。その一口、一口が貴重なものであるかのような仕草だった。
「うん。そうかもしれないね。僕のこの手は今まで壊すことしかしてこなかったけど。ここにきて初めてこんな手でも何かを生み出すことができるんだってわかったんだ。それに畑仕事は嫌いじゃないんだ、僕」
 おそらく試衛館の内弟子時代を思い出しているのだろう、総司は微かにほほ笑んだ。その様子にもう一口と千鶴が匙を総司に差し出す。
「まるで餌付けされてるみたいだね」
 それでもおとなしく口を開く。塩加減も総司の好みのはず。だが、これくらいが頃あいだろう。元々、総司は食が細い。
「もう少し、召しあがれませんか?」
「ありがとう。でも、もうお腹いっぱいだよ、ごめんね。せっかく、作ってくれたのに……」
 体がしんどかったのだろう。宥めすかして薬湯を飲ませると、そのまま倒れ込むように布団へ横になる。
「ほんとう、だらしないなぁ。元に戻ってきたと思ってたんだけど」
「そんなことはないですよ。それにこの熱は総司さんに昨日はうんと頑張ったからお休みしなさいって、誰かが言ってくれてるんですよ」
 肩が冷えぬように、おなざりにかけられた布団を直しながら千鶴が言う。
「それって土方さんかもしれないね。さんざん言われたから。さっさとてめぇは風邪を治しやがれ! ってさ」
 今にして思えば土方は総司の病に気が付いていたのだろう。聡い人だ。総司や千鶴がいくら隠そうとしても隠しれなかったに違いない。
「そうですね」
 そう言うと千鶴は屯所で幾度も繰り返されてきた懐かしい光景を思い出していた。
 あれからみんなはどうしたのだろうか……。
 今まで振り返る余裕もなかったことにいまさらのように気がついた。
「千鶴。みんなが心配?」
 千鶴が何を考えているのなどはお見通しなのだろう。布団の中からそんなふうに問いかけられる。
「心配、じゃないといったら嘘になります」
「そうだね。僕たちもここに落ち着くのが精いっぱいだったから……」
 総司の翡翠のような瞳が僅かばかり曇った。
「でもね。こうも思うんだ。僕たちがこうしているように、みんなどこかで僕らのこと考えているかも知れないってね」
「総司さん……」
「だって、みんなが簡単に逝っちゃうなんてありえないよ。そう思わない?」
 いたずらっ子のような顔をして総司が言う。風の頼りで旧幕軍が大敗したことやたくさんの幕臣が捕えれていることは千鶴も知っている。あえて総司に言わないだけだ。皆が全員無事であるはずはない。
 だが、夫である総司がそう断言するのだ。どうして、千鶴がその想いを慮らずにいられぬだろうか……。
「そうですね。もしかしたら、この里を見つけだして来てくださるかもしれませんね」
 声が微かに濡れていたことに気がつかれてしまっただろうか、千鶴はそんなことを思った。
「うん。だからね、昨日云わなかったけどね。昨日、畑の端に山桜の若木を植えたんだ」
「え……」
 驚いたように顔を上げた千鶴の頬に総司の手がそっと触れた。熱があるのでそれはとても温かかった。
「ほら、桜が咲くとみんなでお花見したじゃない? まぁ、君との生活を邪魔されるのは迷惑だけどさ。桜があれば、みんな、ここに来やすいでしょ。花見って名目でね」
 満面の笑みだった。
 あゝ、と千鶴は得心した。それで総司は昨日無理を押してまでいつも以上に畑仕事を頑張っていたのかと……。
「そうですね。ええ、きっと、みなさんがここへいらっしゃるころにはきっと……」
 それはまだ春が近付いたばかりの晩のことだった。

 そうしてまた春がやってきた。
「今年は少ないけど、花が咲いたねぇ」
 そう言って笑う総司は完璧とまでは言えないが、日常生活をする分には全く問題はなくなっている。
「そうですね。きっと今年こそ、皆さんが来てくださるのでしょうか?」
 そう問いかけた千鶴にすいと総司が桜の木の下を指差した。
「……千鶴には見えないの? ほら、みんな、桜の下にいる。近藤さんも、土方さんも……」
 静かに呟く総司の瞳には千鶴には見えない光景が見えているようだった。
「総司さん!!」
 不安になって思い切り総司の着物の袖を引いた。
「大丈夫だよ、千鶴。みんな、笑ってる……」
 総司の穏やかで静かな言葉……。わかっていた、でも信じたくなかった。その現実を突き付けられて気がした。
「ねぇ、千鶴。桜って違う名前があるんだよ。知っている?」
 いやいやと童のように千鶴は頭を振った。それをほんのわずかばかりに笑うと、総司はこう続けた。
「夢見草、まるで夢を見ているようにきれいだからだって」
 その時、千鶴にも見ることができた。
 まだ若い桜の木に下にみんなの姿がある……。
 みんな笑っている。とても楽しそうだ。
 でも、……。
「残念だけど、僕たちはまだあの下にはいけないみたいだね」
 涙ぐむ千鶴をそっと抱き寄せると、総司はつぶやいた。
「夢見草。本当に夢を見てるみたいだ……」
 いつかはそこへ総司も千鶴も逝くのだろう。
 だが、まだその時ではない……。
「よかったね、千鶴。みんな、笑っていてさ」
「はい……」
 柔らかな光がいつまでも二人を優しく照らしている、暖かな春の日。
 夢見草が咲いた日のことだった。
終わり
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