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想いの色 

2015, 12. 27 (Sun) 00:00

 再UPものが続いてます。この話は結構お気に入りだったりします。

 私の中では総ちゃんはかなりの甘えたさんです(笑)
 この話はそれがものすごく出てる気がして好きなんです。
想いの色

 総司が体調を崩したのは、春がそこまでやってこようとしていた季節だった。この冬は風邪も引かずに元気に隊務を務めていただけに、こんな時期に体調を崩した自分自身に腹を立てていたのだろう。高い熱も相まって、総司が不機嫌な日々が続いていた。
「沖田さん……。こちらのお布団に移っていただけませんか?」
 寒い日が続く京の冬でも春が近づいてきたのか、小春日和のような日に恵まれることもある。熱のせいで汗をかいたと思われる布団を、柔らかな日差しのお日様にあててふっくらと暖かくなったものと取り換えようと、千鶴は総司へと声をかけた。
「いい!」
 案の定、布団の中から返ってきたのは紋切口調の不機嫌な言葉。千鶴は子供が拗ねているようなそんな総司の様子に、微かに苦笑した。
「ですが、汗で冷たいお布団に寝ているとかえって治りが遅くなります。それでは、失礼いたします!」
 きっぱりと言い放つと、掛け布団を無理やり剥ぎ取った!
「ち、千鶴ちゃん。何するのさ!」
 やはり子供のように拗ねていたらしくまるで童のように布団の中で丸くなっていたようだ。驚いて、起き上がったところで千鶴は総司の肩に綿入れをかけると、にっこりとほほ笑んだ。
「夜着も取り変えてください。湯浴びもなさりたいと思いますが、まだ控えた方がよいですね。私の部屋を暖めて、お湯と火鉢で温めた夜着を支度してありますから、身体を清拭して着替えていらして下さい」
「やだ!」
 即答だった。だが、それも千鶴の想定済みだ。
「わかりました。近藤さんのお気遣いだったのですが、仕方ありませんね。私からそうご報告させていただきます」
 しらっと千鶴はそう言ってのけると、綿入れを被ったままの拗ねる沖田を放置して、今まで蓑虫状態で総司が被っていた蒲団だけをきちんと整える。
「では、失礼させていただきます」
 そうしてきちんと正座をして、立ち去ろうと立ち上がった時、
「近藤さんが、そうしてくれって千鶴ちゃんに頼んでくれたの?」
 とおずおずと言葉が戻ってきた。
「はい。今日は暖かくてお布団を干すのに良い日だから、沖田さんが早く元気になるように干してくれと頼まれました。それにお湯や夜着も……」
 半分は本当で、半分が脚色だ。
確かに暖かい布団で眠ったほうが総司の身体の為に良いだろうと近藤は口にしたが、それを実行したのは千鶴だ。それに着替えと身体を清拭した方が良いのではないかと提案したのは千鶴で、近藤はそれに必要な物を支度してくれたのである。
それも、これも、近藤が総司を心配すればこそだ。
「じゃ、あ。着替えても、いい……」
 ふいと横を向いて、小さな声で先ほどとはまるで違う返事が返る。
「では、私は沖田さんが着替えている間にお布団を取り替えておきますね」
「うん……」
 着替えのために自室を出ようとして背中を見せた沖田の耳は、照れているようで真っ赤だった。

 総司がいなくなると、汗で冷たくなってしまった布団をお日様の匂いのするものと手早く交換し、部屋に置いてある火桶の炭の具合と五徳の上に載った鉄瓶の中の湯量を確認する。空というわけではないが、少し湯量が減っているので勝手場から新しい水を入れたものと入れ替えた。今まで総司が使っていた布団はその間に平助が布団部屋へと片付けてくれていた。
「ありがとう、平助君!」
千鶴が嬉しそうに礼を云うと、
「俺が風邪ひいたときも、総司みたいに、世話してくれればいいからさ」
と意味ありげな一言残して行ってしまった。
「平助君ったら……」
 千鶴は自分の頬が赤くなるっているのを感じていた。
「特別、に見えるのかな……」
 誰もいないことを確かめて一人ごちる。なんだか不思議な感触が胸から湧き出してくる。今まで感じたことのない不思議な感じ……。それに気付くといっそう頬が赤くなったような気がした。
「そんなことより、早く準備しなくちゃ!」
 パンと赤くなっているであろう、己の頬を気合い入れのために一つ叩くと、今まで鉄瓶に入っていた熱い湯で柚子湯を作った。
 総司が部屋に行く前から温めていたとは云え、湯で身体を拭いてから着替えて、千鶴の部屋から自室へと戻ればそれなりに身体は冷えるだろう。これならば総司は嫌がらずに飲んでくれるはずだ。
「柚湯、沖田さん、好きだもの」
 そう呟いた千鶴の顔には新選組どころか父である綱道ですら見たことのない、優しい笑みが浮かんでいた。

 あれから、数日。暖かくなったせいなのか。それとも良くなりかけていたためなのか、総司の風邪はようやく全快した。巡察に、隊士へ稽古にと寝込んでいた分を取り戻すように動き回っている。
 それを見つめる千鶴の瞳はとても優しかった。
 そんな日が続いた一日。動きすぎだと休憩するように無理やり土方に云われて、自室でまたふて寝をしているらしい総司に近藤が薯蕷饅頭を持っていって、話し相手をしてくれるようにと千鶴に頼んできた。
「はい、わかりました。近藤さん」
「頼んだよ」
 千鶴は微笑んで近藤の言葉に快諾すると、熱いお茶を入れて沖田の元へと向かったのだった。

 千鶴が総司の元へ行くと、彼はぼんやりとして縁側に腰掛けていた。今回はふて寝をするのはなしにしたようだ。
「沖田さん。近藤さんが召し上がってほしいと薯蕷饅頭を下さいましたよ。一休みされてるうちにいかがですか?」
 そう柔らかく声をかけても返事はこない。千鶴は困ったような笑みを一つ浮かべて見せると、黙って熱いお茶を入れて饅頭と一緒に総司へと差し出した。
「お茶が冷めないうちにどうぞ」
 総司はほんの僅かばかり湯気の立つ湯のみへ視線を移すと、童のように拗ねた物言いでこう言い放った。
「これも千鶴ちゃんが近藤さんに頼んだの?」
 どうしてそんなことを思ったものだか……。苦笑すると、千鶴は優しい声音でこう応えた。
「そんなことなんてありませんよ。これはわざわざ近藤さんが沖田さんの為に用意されたものです」
「でも、この間は、千鶴ちゃんがそうした方がいいって近藤さんに言ってくれたんでしょ?」
 どこで聞きこんできたのやら、そんなことを云いだした。口の軽いものというのはどこにでもいるようだ。
「沖田さん。暖かいお布団で休めば沖田さんの病の治りが早いだろうと仰ったのは近藤さんです。私は近藤さんの意を汲んだだけです。これでも私は土方さんの小姓扱いの身です。主と仰ぐ方の意図も読み取れなくては仕事になりません。それにお湯も、火鉢も、近藤さんがわざわざご用意して下さったものですよ。近藤さんが沖田さんを大事に思わればこそです。だから、私は偽りなど言ったりはしていません!」
 一気にまくしたてるように言い放つと、総司がほんの少しだけ呆れたような顔つきになった。そうして千鶴が入れてくれた熱い茶を観念したようかのようにその手へ取った。
 そして、一言付け加えた。
「千鶴ちゃんの湯のみも持っておいでよ。せっかく近藤さんが持ってきてくれたんだから、一緒に食べよう」
 その響きはいつも総司の物言いよりもずっと優しかった。

 二人で入れたお茶を飲んで、近藤から渡された饅頭をゆっくりと味わう。柔らかで優しい甘味が口の中に広がっていた。
 そうしてどれぐらいたったころだろう……。
 沖田がぽつりと呟いた。
「ありがとう、千鶴ちゃん」
 その言葉に驚いて、沖田の顔をしばし見つめると照れたような顔をして更に一言。
「じろじろ見ないでよ。早くあっち向かないと斬っちゃうよ」
 どこか困ったように、それでいて照れくさそうな総司の顔。頬が僅かに赤くなって見えるのは気のせいだろうか。
 それでも千鶴はとても幸福な気持ちで、そんな総司の顔を記憶に止めたのだった。

 その日、総司と千鶴の二人の胸の中に一輪の想いの花が咲いた。
 その花の想いの色はどんな色?
終わり
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