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お弁当箱に心を詰めて~犬嶌謡のお弁当箱~ 

2014, 09. 03 (Wed) 23:04

 『あやかしごはん』の初書きです。ED後、謡凛です。でもお弁当を作っているだけの話になってしまった。優しい話ですね。料理が好き(上手いではない)なので、いろいろ参考になったゲームです(笑) 一応、全員の攻略は終わったので、感想は後日にUPしたいです。でも、まずは書きたかったのでSSを書きました。ネタバレはしてないです。念のため~。

気がつけばカウンターが千を超えていました。いらしてくださった方にありがとうをm(__)m
お弁当箱には心を詰めて
~犬島謡のお弁当箱~

 秋が深まり、紅葉村の紅葉が一層色濃くなる。二度目の秋だ。大学受験を控えてはいるが、時には休むことも必要だと吟に諭されて、萩之介の誘いもあってみんなでまた紅葉を見に行くことになった。
「吟さん、あのね。今度のお弁当も私が作りたいの」
 夕飯の片づけをしながら、凛は吟に小さく声をかけた。
「そ、それでね。できれば、材料を選ぶ所から全部ひとりで出来たらいいなと思っていて、」
 段々と小さくなっていく声。その顔は真っ赤だ。だれのためにお弁当を作りたいのか、その表情でわかる。
「…………」
 あんなに小さかった女の子がこんなに大きくなってと吟は思う。人の成長はあやかしとは違う、まるで駆け抜けるようだ。だからこそ、愛おしい。
「わかった。そうだね、この辺りで気分転換をするのもいいと思うよ。でも無理はしないこと。食材のことは真夏に凛ちゃんが相談に行くからと伝えておくからね」
「ありがとう、吟さん……」
 たくさんの辛い記憶が一時、凛の心を凍りつかせていたけれど、それを溶かしたのは謡だ。千年という長い時間を生きてきた吟にはまだまだ初々しい想い。だからこそ、見守ってやりたいと思う。
 布巾で一枚、一枚、丁寧に食器を拭いて、片付ける仕草には以前あったような危うさはない。そう今の凛はまるでしなやかな若木を思わせるように真っ直ぐに天へ向けて伸びて行く。そんな風に凛を変えたのは謡だ。
 そうして二人は恋をした。まるで小さな花のような恋。
 紅葉神社の狛犬のあやかしである謡と凛では時の流れが違うと神様に諭されたこともあったようだけれど、二人の心は変わらなかった。嘗ての真冬と吟のように……。
「おいしいごはんを食べれば、みんなしあわせ、だからね」
 にっこりと吟が笑みを浮かべれば凛から笑みが返る。
「おててぱっちん、してね」
 凛の頬には笑みとは違う花が淡い色で咲いていた。

「えーと、鳥の唐揚げ。卵焼き。ポテトとかぼちゃのサラダ。サーモンでお花を作るのは難しいかも、吟さんに作りかたを教えてもらおうかな。でも、それだと手伝ってもらうことになっちゃう。それともプチトマトで色どりしようかな、でも、お魚がないとやっぱり蘇芳に悪いし」
 ベッドの上で買い込んだお弁当の本を広げて、あれこれと考える。楽しい時間だ。
「ご飯はおむすび。でも、前に行った時におむすびを作ったし、おいなりさんはまだ上手に油揚げを煮ることができないし」
 ぺらぺらとページをめくりながら、今度はご飯とどうしようと考え込む。遠出の定番はおむすびだけど、いつも同じではあまりにも芸がない。そこで、ページをめくる手が止まった。そこには豪華な色どりの押しずしの写真が載っていた。綺麗で、とってもおいしそう。
「そうだ、押し寿司を作ろう」
 酢飯にはゴマを混ぜ込んで、ご飯とご飯の間にはシーチキンで作ったそぼろをサンドして、ご飯の上には錦糸卵に絹さや。彩で紅葉形に抜いて茹でた人参を飾ろう。これなら、豪華だし、三色揃う。押し寿司は見た目よりもご飯を使うから、きっと謡も満足してくれるはず。この本見たいに豪華な食材は使わないけど、食べる人の気持ちを考えて、みんなで食べればきっとおいしい。それにシーチキンのそぼろは大目に作っておけば、振りかけがわりになる。それに大分涼しくなったけれど、やはり生ものは避けたい。
「ご飯を大目に炊いて、半分はシーチキンのそぼろ。半分は鳥肉のそぼろで作れば味が変わっていいかしら。謡はお肉の方が好きだし」
 吟に料理を教えてもらうようになってから付けているノートに材料を書きこみながら、凛は大きな口をあけておいしそうにお弁当を食べる謡の顔を思い浮かべて嬉しそうに微笑んだ。

 事前に下ごしらえもしていたし、そばろは前の晩に作っておいた。それでも男子が四名に自分と合わせて五人分のお弁当と作るのは時間がかかる。それに、お弁当はあともう二つ必要なのだ……。
 だから当日は朝の3時半に起きた。顔を洗って、支度をしてキッチンへ降りて行くとご飯が炊けたいい匂いがしてくる。それだけでお腹がぐうーと鳴りそうだ。
「飯台の上にご飯をあけて……」
 大分、慣れてきた作業だ。
 そして大量にも思える酢を入れて、ひたすらつやが出るまで季節外れのうちわで扇ぐ。
「け、けっこう力がいるのね」
 米が酢を吸いこんで、つやが出てきた段階で、飯台にご飯をあげる前に炒っておいた白ゴマを斬るようにして混ぜる。ここまで出来たら、ご飯はしばらく置いておく。
 そして、揚げものへとりかかる。鳥の竜田揚げだ。いつもの唐揚げだと変わらないし、竜田揚げはお醤油に漬けてあるから、香ばしくておいしい。用意してあった鳥肉を全て揚げおわると、白身魚のフライも揚げる。ころもに粉チーズを混ぜてあるから、そのまま何もつけなくてもおいしく食べられる逸品だ。ころもにはイタリアンパセリを刻んだものも混ぜてあるから彩りもばっちりだと思いたい。揚げものはそのまま、お弁当箱に詰めるまで、さましておくことが大事だ。
 それから、サイコロ状に切ったジャガイモとかぼちゃを軽くレンジでチンをして食べごろに火を通す。それへ軽く塩、こしょうしてから、マヨネーズにサワークリームを混ぜたものを合わせると、全体を軽く混ぜてボール型に握る。それからプチトマトとさっと水洗いして、飾り切りしておいてきゅうりとまとめておいておく。
 それから、お弁当には欠かせない卵焼き。凛は甘い味付けも、塩味でも好きだけど、今回は絶対に甘い厚焼き卵が食べたいという謡のリクエストに応えて味は甘めだ。
「焦がさないように、火加減に気をつけて……」
 吟が使いこんでいるから、焦げ付くことはないだろうが、やはり砂糖やみりんを使ったものは焦げやすい。だから慎重に火加減を見ながら、ゆっくりと卵液を流しこんでは焼き、焼いては流し込んで、徐々に厚みを増やして行く。
「できた!」
 きれいな黄金色に焼き上がったそれを皿に揚げると端をほんの少しだけ味見する。
「おいしい」
 ほろりと凛の唇から言葉が漏れた。
 同じように謡がおいしいといいな。おいしいが嬉しいにかわるといいな、そんな願いに似た気持ちが凛の胸の奥から湧きあがってくる。
 次は錦糸卵を作って、メインに近い押し寿司だ。絹さやも人参も昨日の内に用意してあるから、これが火を使う最後だ。
 うすーく、薄く焼いた卵を糸のように細く、細く切る。
 額にうっすらと汗をかきながら料理を続ける凛は、その姿を静かに見守る三つの影に気がついてはいなかった。

「あーあ。腹減った。朝早くから、あんな匂いさせるなんて反則だぜ! なにもあんなに張りきらなくてもいいっての」
 吟に促されて、キッチンからリビングに戻ると謡がぼやくように声を出した。時計を見ればまだ6時前だ。これから押し寿司を作り、おかずを弁当箱に詰めるのだろう。
「謡。凛ちゃんが頑張っているのは謡のためでしょう。てれ隠しでもそんな風に言わないの」
「聞いているこっちの方がばかばかしくなる」
「あのなぁ!」
 双子の詠の言葉にいつものような大声で反論しようとした時に、吟と詠の二人同時で口を押さえられた。
「静かに」
「ばか」
 凛はまだ誰も起きていないと思っているのだ。ここでみんなが顔をそろえていると知れば、またいろいろ考え込むだろう。
「…………」
 わかったから静かにしますと仕草で示すと、二人の手が謡の口から放れた。
「こんな朝早くから頑張ってくれるのは嬉しいよ。けどよ」
 心配なのだと謡が言外に言う。その様子に詠がやってられないとそっぽを向く。その様子に吟は微笑ましいと笑みを深くした。
「そうだね。本当に一生懸命だよね。でもね。謡、詠。だからこそ、あのお弁当には沢山のおいしいと嬉しいが詰まっていると僕は思うよ」
 窓の外には明るい日差しが差し込み始めている。
「絶好のサイクリング日和だな」
 謡が静かに呟く。
「ああ」
 詠がそれに淡々と答えを返した。

 大きめの重箱が三つ。全部色違いだ。一つはおかず。二つは押し寿司。
 まず、重箱にサランラップを引いて、錦糸卵。絹さや。人参を彩りよく並べて行く。並べ終わったら、その上に酢飯を乗せる。綺麗に鳴らしてからそぼろを敷き詰めて、その上にまた酢飯を乗せる。乗せたら、重石を乗せて置いておく。もう一つも同じだ。
 それから、残った重箱に卵焼き。鳥の竜田揚げ。白身魚のフライ。ポテトとかぼちゃのボールサラダ。隙間にはプチトマトと飾り切りをしたきゅうりと彩りを考えながら入れていく。おかずにはピックをさして、取り出しやすいようにしておく。
 それから大きめのお弁当箱と小さいお弁当箱にも同じようにおかずと詰めて、こちらはちらしずしのように酢飯と錦糸卵などと詰め込んでいく。
 同じ時間に、同じものをおいしく食べればもっと嬉しくておいしくて、幸せになれると今の凛は思うのだ。だから、吟と綴の分も作ろうと思っていた。こちらは重箱に詰めるわけにはいかないから唯のちらしずし風にしかならないけど、おいしく食べてもらえたらうれしい。
 そうして、最後の仕上げだ。重石を外して、ひっくり返す。一番大変で大事な作業。慎重に、ゆっくりご飯を引きあげて、ひっくり返す。
「できた!」
 合格点は貰えるかなと思いながら、凛はその出来栄えに満足したのだった。

「パパ、お姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べる時間だよ」
 それまでお絵かきをしていた綴が時計の針を見て吟に声をかける。
「そうだね、約束の時間だね」
 大きなお弁当箱と、小さいお弁当箱の二つを持って吟は綴と一緒に手を合わせた。
「「おててぱっちん。いただきます」」
 お弁当箱を開けた瞬間、綴の嬉しそうな声がぽんぽこりんに弾けて響いた。

「うわぁ、これは豪華だね」
 大きな重箱に三つ。一つにはおかずがぎっしり。二つには彩り鮮やかな押し寿司。
「うっまそう!」
「これは魚のフライか!」
「お前たちはがっつくことしか考えてないのか」
 今にもそのまま、重箱に箸を突きたてない勢いに凛は、
「ほら、大事なことを忘れてるわ」
「あ、いつものあれな!」
 謡が満面の笑みで応える。
「本当だよ。あれを忘れちゃ駄目だよね」
 萩之介もうん、うんと頷く。
「さっさとやって早くたべさせろにゃ」
 蘇芳が急かせる。
「さっさと喰わせてやれ、朱音。でなきゃ、騒ぎ出すぞ」
 詠が諦めたような口ぶりで凛を促す。
「じゃあ。おててぱっちん。いただきます」
「「「おててぱっちん、いただきます」」」
 青い空が広がる下で凛たちの声が響く。
 どうか、どうか、おいしいがいつまでもしあわせになりますようにと凛は思った。
 あなたの嬉しいが、おいしいが、私の幸せだから……。


 ここで出てくるメニューは本編には出てこないものです。家でいつもつくっているものです。ご了承を……。
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